月面の砂を掘り、道をならし、現地の材料で構造物を造る―かつては空想の世界にあった月面建設が、地上で実機や実大模型を動かす技術開発へと歩みを進めている。国土交通省と文部科学省が連携する「宇宙建設革新プロジェクト」は本年度、研究開発の最終年度を迎えた。無人施工から建材製造、居住施設まで12件の成果を取りまとめ、将来の月面活動と地上の建設現場への展開につなげる。
プロジェクトは政府の「宇宙開発利用加速化戦略プログラム」の一環として2021年度に開始。災害現場などで培われてきた日本の無人化施工、ICT施工を月面へ応用するとともに、その過程で高度化した技術を地上へ還元することを狙う。初年度に無人建設6件、建材製造2件、簡易施設建設2件の計10件を選び、22年度には自動走行、月面建設システム、ベースキャンプに関する3件を追加。その後12件に再編し、実現可能性調査から複数年度の研究開発へ移行した。
月面は地球の約6分の1の重力で、大気がほとんどなく、昼夜の温度差も大きい。測位衛星を利用できず、地球から建機を操作すれば通信の遅れや通信容量の制約が生じる。大量の建材や機械を地球から運ぶには莫大な費用がかかるため、自ら位置を把握して動く建機、月の表土を利用した建材、折り畳んで輸送できる施設などが必要になる。
こうした技術の検証に鳥取砂丘も一役買った。県は23年7月、鳥取大学乾燥地研究センター内に、屋外常設型として国内初となる鳥取砂丘月面実証フィールド「ルナテラス」=写真(下)=を開設。約0・5ヘクタールの敷地に平面、5~20度程度の斜面、利用者が自由に掘削・造成できる三つの区域を設けた。国立公園外にある砂丘の砂をそのまま利用し、月面探査車や建設機械の走行、掘削などを試せる環境を整えている。
同年12月には、大成建設とパナソニックアドバンストテクノロジーが、月面に適応するSLAM自動運転技術をルナテラスで実証した。SLAMは、車両に搭載したセンサーの計測値から自己位置の推定と周辺地図の作成を同時に行う仕組み。月面のように目印が乏しく測位衛星も使えない環境で、建機を自動走行させるための基盤となる。
鳥取砂丘とJAXA施設で行った試験では、レーザーで周辺形状を捉えるLiDAR―SLAMと、人工的に置いた目印を利用するランドマークSLAMを組み合わせ、模擬月面環境への適応を確認した。その後は、あらかじめ探査した長距離ルートを繰り返し往復する輸送作業を想定し、先行車が残した轍を線路のようにたどる技術へ発展。25年度までに轍追従の実証を終え、今年度は月の極域特有の照明環境を仮想空間に再現し、検知性能と運用性を高める。
無人建設分野ではこのほか、通信遅延や測位設備のない環境、複数建機の連携を再現する施工シミュレーターの開発が進んだ。調査分野では、測量、地震探査、密度測定、載荷・せん断試験の装置を積んだ無人ローバーを試作。さらに月の表土を想定した現地資源の活用も具体化が見え始め、居住モジュールなどの簡易施設建設はフルスケール模型の実証へ進む。
もっとも、最終年度を迎えたからといって、月面での着工はまだまだ先の話。現段階の中心は地上試験と仮想環境による検証であり、真空、放射線、微細な月の砂、温度差、低重力の下で長期間稼働できる機械や材料へ高める必要がある。地球からの輸送手段、電力と通信の確保、個別技術を一連の施工として結び付けるシステム化も残された課題だ。
一方、開発成果は月面だけに向けられたものではない。通信環境の悪い災害現場やトンネル内での無人施工、少人数で動かせる自律建機、急傾斜地で物資を運ぶ索道、短時間で展開できる応急施設など、地上の建設事業への応用を見込む。人手不足と災害対応が重い課題となる建設業界にとって、月面という極限環境への挑戦は、足元の現場を変える技術開発でもある。
砂丘に刻まれた小さな無人車両の轍は、まだ月へ続く道の入口にすぎない。最終年度の成果を実際の月面実証へどう引き継ぎ、地上の現場へどう普及させるのか。プロジェクトの真価が問われるのは、むしろこれからだ。
